【note掲載】地域と地域を繋げば、社会課題は解決できる。富山の商社がフルーツピューレで実践する民間外交

現代の北前船物語 Vol.2

■現代の北前船物語とは

富山から世界へ、世界から地域へ。
「現代の北前船」を掲げるホクセイグループは、日々、各地で新たな航路を開拓し続けています。本連載『現代の北前船物語』は、私たちが取り組む具体的なプロジェクトや、その裏にある出会いや挑戦のドラマを、深掘りし、お届けする記録です。

単なるビジネスの事例紹介ではありません。
地域と地域を繋ぐことで生まれる新しい価値や、社会課題に挑む現場のリアリティ。
そして、一見バラバラに見える事業が、どのようにして一つの大きな航路を描いているのか。

地図には載っていない、私たちの航海の全貌をご覧ください。

横浜で実施されたクラフトビールイベント

画像
2026年2月上旬。
海に面した横浜の大さん橋ホールで、JAPAN BREWERS CUPおよびJAPAN BREW EXPOというクラフトビールの祭典が開催されました。

画像
画像

これぞ横浜!!、という赤レンガ倉庫・横浜ランドマークタワーをはじめとしたみなとみらいの景色を横目に、巨大なホールの扉を開けると、
そこはどこか海外の雰囲気も感じられるような熱気と活気に満ちた会場がありました。
高い天井の下には、日本全国からクラフトビールに関連した企業のブースがいくつも並んでいます。

画像
このイベントは、単にクラフトビールを飲んで陽気に騒ぐためだけのお祭りではありません。ブルワリーや醸造家の方々たちに向けたクラフトビールに特化した展示会なのです。
醸造機器を提供している企業や原料を取り扱う企業などが交流できるイベントになっています。

イベント期間中ではビール審査会も実施されました。
ビールの審査員をブルワー自身が務め、全国から集まった職人たちが、日頃は市場でシェアを争うライバルであり、同時に同じ道を歩む仲間でもある他社のビールを自らの舌で味わいます。
日本のクラフトビール業界全体のレベルをもう一段階引き上げていくための、真剣な技術交流の場がそこにはありました。。

この空間に、出展企業として私たちホクセイグループも参加してきました。

画像
ブースに立った担当の杉村と山口の元には、次々とイベントの来場者が訪れれてくださいました。

何を目当てに来場者の方は、富山に本社を置くアルミの専門商社であるホクセイグループのブースに足を運んでくださるのか。
そもそも、なぜビールの祭典にブースを構え、第一線で活躍する醸造家たちと熱を帯びた議論を交わしているのか。

私たちは自社の工場でビールを醸造しているわけではありません。
発酵用の巨大なステンレスタンクや、パッケージングのためのアルミ缶そのものを彼らに直接売り込みに来たわけでもありません。

私たちが横浜の会場へ、そして情熱ある醸造家たちの元へ運んできたのは、無機質な金属ではありません。
アメリカ西海岸の広大な大地で育った、瑞々しい果実でした。

アルミ商社が扱うアメリカオレゴン州のクラフトビール用ピューレ

私たちがブースのテーブルに並べ、ブルワーたちに提示していたのは、
アメリカのオレゴン州で生産されたフルーツピューレです。

画像
今の日本のクラフトビール市場を牽引するトレンドの一つに、フルーツを使用したビールがあります。
ラズベリーの鮮烈な酸味や、マンゴーのトロピカルな香りなど、果実がもたらす複雑な風味は、従来のビールの枠を飛び越え、新たなファンを開拓しています。

しかし、このフルーツビールを実際に造り上げる現場は泥臭く過酷です。
生の果実をそのまま使おうとすれば、数十キロ単位の果実を洗い、皮を剥き、種を取り出し、適切なサイズにカットする膨大な手作業が発生します。

小規模なブルワリーであれば、この下処理だけでスタッフの時間が奪われます。さらに、果実の皮に付着している野生の酵母や乳酸菌などのバクテリアが発酵タンクに混入すれば、ビールが意図せず酸っぱくなったり嫌な臭いを放ったりして、数千リットルものビールをすべて廃棄しなければならなくなるリスクがあります。
これを防ぐための加熱殺菌作業や、季節によって変動する果実の糖度や酸味に合わせたレシピの微調整など、品質を安定させるための神経のすり減らし方は尋常ではありません。

この物理的かつ技術的な重い制約を外し、醸造家を解放するのが、
私たちが持ち込んだオレゴン産のフルーツピューレです。

一番美味しく熟した時期に収穫された果実が、すでに種や不要な皮を取り除かれ、無添加のままピューレ状に加工され、無菌状態でパッケージングされています。
醸造家は、重労働である果実の皮むき作業から解放され、雑菌汚染の恐怖に怯えることなく、ただパッケージを開けてタンクにピューレを投入するだけで済みます。
ロットによる味のブレも少なく、年間を通じて安定した品質の果実味を得ることができます。

横浜の会場では、杉村と山口が醸造家たちと
「このピューレを使えばこういうビールが造れそう!」
「実は今年はこのフルーツを使ったビールを造ろうと考えていた!」
というお話などをたくさんさせていただきました。

アルミ商社がフルーツを運ぶ理由。一方通行のビジネスへの疑問

果実を扱うハードルを下げ、ブルワリーが挑戦できるビールの選択肢を増やすオレゴン産ピューレ。
ではなぜ、アルミ商社である私たちが、この果実をアメリカからわざわざ輸入しているのでしょうか。

その背景には、ホクセイグループがアメリカのオレゴン州ポートランドと長年にわたって築き上げてきた関係性と、代表の冨田が抱いていた強い葛藤がありました。

ホクセイは以前から、ポートランドにある日本庭園に向けて、富山県が誇る伝統産業である高岡銅器をはじめ、日本の精緻な職人技が光る伝統工芸品や生活雑貨を輸出する事業を行っていました。日本の文化の美しさや、職人が一つひとつ手作りで生み出す価値を、海を越えてアメリカの人々に届ける仕事です。
日本のものづくり産業の裾野を広げる意味でも、非常に意義のある事業として取り組んでいました。

画像
しかし、この取引を数年続ける中で、
冨田は現在のビジネスモデルの在り方に疑問を持ち始めます。

日本の優れたモノをアメリカに売る。この一方通行だけでは、本当の意味でのパートナーシップとは言えないのではないか。
一方的に輸出するだけではなく、アメリカの輸出にも貢献し、矢印を双方向にする。
それこそが本当の意味でのパートナーシップなのではないか、と。

冨田は、日本からモノを売るばかりではなく、アメリカのものを日本へ輸入する事業を立ち上げようと決意します。
そこで、アメリカ国内で高い品質と実績を誇りながらも、まだ日本の市場に十分に認知されていないプロダクトを探し始めました。

様々な視点から現地を歩き、リサーチを重ねた結果、目をつけたのが、オレゴン州が世界に誇る農産物、特にベリー系のフルーツでした。
オレゴン州は豊かな土壌と冷涼な気候に恵まれ、ベリー類の栽培が非常に盛んです。

世界中のトップシェフが指名買いするほどの品質を持つオレゴン産の果実ですが、広大な農地で大量に生産されるがゆえに、天候によっては豊作になりすぎて国内の需要を大きく上回ってしまい、
行き場を失った果実が過剰な在庫を抱え、最悪の場合は廃棄されてしまうというフードロスの問題を抱えていました。

もし私たちがオレゴンのフルーツピューレを日本に輸入して買い取れば、
アメリカの農家が抱える過剰在庫の解消という、彼らの切実な地域課題の解決に直結します。

さらに、私たちがこの商材を選んだのには、もう一つ絶対に譲れない判断基準がありました。
それは日本の農家の邪魔をしないということです。

私たちが着目したブラックベリーやラズベリー、ボイセンベリーといった果実は、気候や土壌の条件から、日本では大規模な商業栽培がほとんど行われていません。
日本国内の農家が一生懸命育てているみかんやりんご、いちごといった果実を安価な輸入品で置き換えて市場を奪うのではなく、日本国内では手に入りにくい果実を選ぶこと。
これなら、日本の農家と真正面から競合し、国内の第一次産業を圧迫するような事態を避けることができます。
可能な限り日本の農業を脅かすことなく、日本の市場にまったく新しい食材と価値だけを提供できるのです。

富山の職人が打った銅器をポートランドへ送り、代わりにオレゴンの農家が育てたベリーを日本へ持ち帰る。
一方的に売りつけるのではなく、相手の土地で余っている素晴らしいものを引き受けて、日本で新しい使い道を探す。双方向の取引を通じて、お互いの地域の役に立つ仕組みを作ること。

アルミ商社がフルーツを運ぶ背景には、実はこうした想いや考えがありました。扱うモノがアルミという金属からフルーツという生鮮品に変わっても、私たちがやっていることの本質は何も変わりません。

ある場所にある良いものを、それを必要としている別の場所へ繋いでいく。

商社としての基本的な役割を、国境を跨いで実直に果たしているだけなのです。

地方商社がビジネスで民間外交をしていく

ホクセイグループが展開するこれらの事業の根底には、代表である冨田の学生時代の原体験が深く関わっています。私たちがなぜ、単なる利益追求を超えて、ここまで地域と地域の結びつきにこだわるのか。
その理由はここにあります。

冨田は大学時代に国際政治を専攻し、国家間の力学や核抑止論などを学んでいました。その過程で国連でのボランティア活動に参加する機会を得ました。そこで彼が痛感したのは、世界を平和にし、国と国との関係を良好に保つのは、決して政治家による条約の締結や、国連機関による調停だけの力ではないということでした。
民間や経済にも世界を動かす力があると知ったのです。

民間企業が国境を越えて経済活動を行い、互いの生活を支え合い、相互依存の関係を築くことにこそ、
人々の心を結びつけ、結果的に紛争を防ぎ、世界を平和に導く力がある。

この確信が、現在のホクセイグループを率いる最大の原動力となっています。ホクセイのビジネスは、安く買って高く売り、自社の利益を最大化することだけを追求する手段ではありません。
ビジネスを通じた社会課題の解決であり、経済活動を通じた文化交流による、民間外交にもつながっているのです。

画像
当時NHKで取り上げていただいた際の写真

実際、2021年には当時米オレゴン州知事であるケイト・ブラウン氏を団長とする訪問団が来社してくださいました。
富山県庁を表敬訪問された際に、弊社にも立ち寄っていただき、日本とオレゴンを繋いだ取り組みについて、様々な議論をさせていただいたのです。
当時NHKの取材も入り、メディアにも取り上げていただきました。

画像
日本の伝統工芸品を海外へ輸出し、その背景にある日本の美意識や歴史を伝える。逆にアメリカのフルーツピューレや北欧の生活用品を日本へ持ち込み、その土地の気候風土が育んだ豊かなライフスタイルを日本の人々に提案する。

私たちがオレゴンの農家がどれだけ丹精込めて果実を育てているかという想いを日本のブルワーに伝え、日本のブルワーがそのピューレを使って造り上げたビールの味や、日本の消費者の喜びの声をオレゴンの方達にフィードバックする。
こうした草の根の活動を丁寧に積み重ねることで、政治的な枠組みだけでは決して到達できない、顔の見える強固な信頼関係が育まれていきます。

政府が行うマクロな外交だけでなく、ビジネスを通じたミクロな民間の外交を積極的に行うことで、世界は少しずつ、確実に良い方向へ向かっていくと信じています。

ビジネスの力で三方よしを再現する

社会の不条理をなくしたい、地域が抱える課題を解決したいという想いを持つ人は決して少なくありません。
しかし、それを単なるボランティアや採算を度外視した慈善事業として行ってしまえば、いつか必ず資金が底をつき、関わる人々が疲弊し、活動は完全に止まってしまう可能性があります。

私たちが沖縄に現地法人を設立し、内なる当事者として地域課題に向き合っているのも、このオレゴンのピューレ輸入事業も、すべてはボランティアではなく、持続可能なソーシャルビジネスとして成立させるという強い意志に基づいています。

だからこそ、私たちはビジネスの力を使います。

オレゴンの農家が丹精込めたピューレを適正な価格で販売し、次の投資ができるような利益を得ていただく。
日本のブルワーがそのピューレを使って美味しいビールを造り、新しい顧客を獲得して醸造所の売上を伸ばし、スタッフを雇い入れる。
そして、そのビールを飲んだ消費者が、かつて味わったことのない美味しい体験に感動し、グラスを空けて喜んでお金を払う。

もちろん、その循環を支えている私たちホクセイグループも、対価として適切な利益を得て、雇用を守り、法人税を納め、次の新たな航海へと船を出すための資金にする。

誰か一人が不当に我慢をしたり、自己犠牲の上に成り立ったりする関係は、決して長続きしません。自社の利益だけを追求するのではなく、関わるすべての人が価値を受け取り、経済的にも精神的にも豊かになる三方よしの仕組みを構築すること。
私たちが大切にしているGive Give Giveの精神は、ただ与え続けることではなく、関わる全員で大きな価値の循環を創り出せるような状態をビジネスの力で作り出す。
これこそが、資本主義社会において本当の意味で持続可能な社会貢献であると、私たちは強く信じています。

現代の北前船が運ぶ、新しい文化

かつて江戸から明治にかけて、この日本海には「北前船(きたまえぶね)」と呼ばれる商船群が行き交っていました。
大阪と北海道を往復しながら、彼らは単に荷物を運ぶだけではありませんでした。

大阪で仕入れた古着や雑貨を、寄港地である北陸や東北で売りさばく。
そこで得た利益で、今度は北海道の昆布やニシンを買い付け、また別の港で売る。
彼らが運んだものがモノだけではなく、遠く離れた土地の「文化」を運び、「情報」を運び、そして「豊かさ」を循環させていました。

荒波を乗り越え、地域と地域を繋ぎ、単なるモノの流通を超えて新しい文化を創造した先人たちの姿。
それが、私たちがホクセイグループのアイデンティティとして掲げる現代の北前船の由来です。

これからもホクセイグループは、世界中の地域と地域を結びつけ、社会課題を解決していく、ソーシャルビジネスを続けていきます。
ビジネスの力で社会課題を解決し、まだ誰も見たことのない新しい航路を切り拓いていく。
私たちの船は、常にそうした目的地に向かって進んでいます。