菅義偉首相は4月22日、閣僚が参加する地球温暖化対策推進本部で、日本の2030年度における温室効果ガス削減目標を引き上げると発表しました。
また、2030年度の排出量を2013年度比で46%削減すると同時に、「50%(削減)の高みに向けて挑戦を続ける」と話しました。
日本はこれまで「26%減」を掲げておりましたので、大幅な上積みになります。
これを受けて、具体的な行動が行われていくわけですが、温室効果ガス削減にはアルミが大きく関係してきます。
「無印良品」がペットボトル飲料廃止しアルミ缶に切り替え
「無印良品」が4月23日から、ペットボトル飲料をアルミ缶素材に切り替えると発表し、大きな話題となりました。
アルミ缶は回収ルートが整備されており、ペットボトルのようにラベルとキャップを分別する必要がありません。
国内のリサイクル率は約98%で、同一種類の製品を製造する水平リサイクル率は約67%と高水準であり、廃棄はゼロに近いと言われております。
また、アルミ缶は遮光性が高く、炭酸ガスが抜けにくいという特長も兼ね備えているため、賞味期限をお茶は40日、炭酸飲料は90日伸ばすことができるそうです。
もともと飲料のロス率は低いですが、限りなくゼロに近づけることができるという観点から、アルミを循環型原料として採用することを判断したと言われております。
缶の型や生産工場の選択肢が少ないという理由で、内容量はお茶が500mlから350〜390mlに、炭酸飲料は350mlから280mlに減り、事実上値上げとなってしまいますが、それでもペットボトルからアルミ缶へ移行したのは、「アルミが循環型リサイクルしやすい、水平リサイクルしやすい、賞味期限を伸ばすことができるという点に着目し、今すぐにアクションを起こしたかった」という理由からだそうです。
リサイクルの観点や飲料ロスによる観点から、アルミ缶が採用に至りました。
大量の電力消費を必要とするアルミがエコに繋がるのか
アルミは鉄よりも価格が高いのはご存知の方も多いかと思います。
理由は精錬(不純物の多い金属から純度の高い金属を取り出す過程)する際に、たくさんの電気代がかかるからです。
アルミの原料である鉱石のボーキサイトはオーストラリアやギニア、ベトナム、中国などで比較的豊富に見つかるのですが、それをアルミにする方法は実用的には電気分解する必要があります。
そしてそこで使う電気の量は、銅の精錬の10倍もかかります。
それだけ電力を消費するとなると、アルミを使うことで温室効果ガスの削減には繋がらないのではないのか?という疑問が湧いてくる方もいらっしゃるかも知れません。
石油を原料とするペットボトルよりも、エコに繋がるのでしょうか?
結論から申し上げますと、現時点ではペットボトルよりもエコに繋がると考えられます。
「水平リサイクル」の素晴らしさ
先ほど申し上げた通り、無印良品がアルミを採用した理由の中で「水平リサイクルしやすい」という部分があります。
リサイクルにもいろいろと種類があるのですが、この水平リサイクルとは、「回収したものを再利用する際に同じ製品に戻すこと」です。
つまりアルミ缶をリサイクルしてアルミ缶に再生すれば、水平リサイクルになります。
ペットボトルもリサイクルされておりますが、どのような形でリサイクルされているのでしょうか?
多くは、ポリエステルの綿となり、ゲームセンターの景品になるぬいぐるみの中綿などに再利用されております。
これに関しては、「景品のぬいぐるみがすぐに飽きられて捨てられるのであれば、どうなのか?」という問題提起もなされています。
日本コカ・コーラが「い・ろ・は・す」で100%リサイクルペットボトルを使い始めたのは記憶に新しい方も多いかと思いますが、ペットボトルでも水平リサイクルの取り組みはされております。
しかし現状を見てみると、日本の指定ペットボトルの出荷量が年間63万トンほど、うち7万トン強がペットボトルへと水平リサイクルされるので、ペットボトルの水平リサイクル率は12%程度です。
アルミ缶はもともとの電力コストが高いことから、昔から再利用が進んでおります。
アルミ缶リサイクル協会によるとアルミ缶は、日本国内のリサイクル率が98%、缶から缶への水平リサイクル率は67%と現状でも非常に高い数字となっております。
加速する脱プラの中で進むペットボトル廃止
ペットボトルの水平リサイクルが見直される一方で、無印良品だけではなく他の企業や地方自治体でもペットボトル廃止の動きは進んでおります。
株式会社ユーグレナ(本社:東京都港区、社長:出雲充、以下「ユーグレナ社」)は、商品に使用される石油由来プラスチックの削減を目的に、既存の飲料用ペットボトル商品の全廃と、一部商品においてお客様がプラスチックストローの有無を選択可能にすることを決定しました。本施策は、会社と社会の未来を変えていく取り組みを所管するCFO (Chief Future Officer:最高未来責任者、以下「CFO」)とユーグレナFutureサミットメンバー(以下「サミットメンバー」)の主導によるもので、本施策を最初のステップとし、2021年中に当社商品に使用される石油由来プラスチック量の50%削減に挑戦します。
引用:株式会社ユーグレナ
2020年度までに、会議室や応接室で飲み物を提供する際、ペットボトルやストロー、カップなどの使い捨てプラスチックの使用を廃止します。また、社内の売店やカフェなどで提供するレジ袋の配布を原則中止し、フォークやスプーン、ストロー、カップといった使い捨てプラスチックの使用削減と中止を順次進めます。
引用:ソニーグループ株式会社
プラスチックごみを削減しようと、大磯町は4月から公共施設の自動販売機で扱うペットボトル入りの飲料水を廃止した。
引用:神奈川新聞社
脱プラが叫ばれる中で、ペットボトルの廃止が加速していくとなると、代替品が活躍する時代とも言えます。
プラスチックの代替品と言えば、まず始めにビンや缶が思いつく人も多いかと思いますが、最近では紙容器も見直されてきていたり、食べられる容器の開発も目にいたします。
しかし、新たに何かを生み出すには、莫大な研究開発費を要する場合も少なくありません。
既に水平リサイクルのルートが整備されているアルミ缶が更に普及することにより、プラスチックの削減へと繋がり、更には温室効果ガス削減と繋がります。
飲料ロス削減へと繋がることを考えても、SDGsが広く知れ渡りつつある今、アルミの可能性は更に加速していくと考えられます。