
現代の北前船物語 Vol.3
北前船の航路を地図でたどると、日本海沿岸を北上し、最後に北海道へ至ります。
松前、江差、小樽、箱館。
本州から運ばれてきた米や塩の代わりに、昆布やニシンが積み込まれた。北海道は北前船の「終着点」であり、同時に大坂や長崎を経由して世界とつながる起点でもありました。
200年以上が経ったいま、この土地は再び日本の成長の鍵として動き始めています。
■なぜ私たちは、苫小牧にいるのか
ホクセイグループの拠点は現在、富山・東京・北海道・沖縄・京都、そして海外はスウェーデンと米国に広がっています。
その中で北海道は、私たちにとって少し特別な土地です。
2018年、私たちは日本軽金属株式会社の苫小牧製造所の中に、北海道オフィスを移転しました。
日本軽金属は、かつて国内で唯一アルミニウムの精錬を続けていた企業です。私たちにとって、創業以来もっとも深い関係にある取引先であり、資本関係もあるグループ企業です。
弊社が日本軽金属のどの部署にも口座を持ち、原料から中間材料、加工品まですべてを扱えるのは、この関係があるからです。
つまり、北海道は私たちのアルミの源流がある土地です。
アルミ商社では品種が限られていることも多い中で、私たちが原料から中間材料、加工品まですべてを扱えるのは、日本軽金属のどの部署にも口座を持っているからです。小ロットの試作対応から大口の調達まで、幅広く動ける。
これが私たちの調達能力の土台になっています。
ただ、正直なところ「色々なことができるのにまだまだ伝わっていない」という課題も抱えています。だからこそ、製造の現場に近い場所にオフィスを構えて、足で稼ぐ。
苫小牧の製造所の中に身を置いて、アルミがどう作られ、どう加工され、どこへ届くのかを肌で感じる。
それが私たちの選択でした。
■苫小牧という土地の力
苫小牧は、もともと王子製紙の企業城下町として発展した街です。製紙業を中心に物流・製造業のインフラが形成され、港湾機能を持ち、新千歳空港にも近い。
北海道の産業拠点として長い歴史を持っています。
日本軽金属の苫小牧製造所は、1968年に操業を開始しました。50年以上が経った現在も、88名の従業員がこの地でアルミ鋳物製品の製造を続けています。苫小牧には、アルミの鋳造・鍛造から表面処理まで、一連の製造インフラが揃っています。
私たちのオフィスは、そのただ中にあります。
私たちの営業担当者はこの拠点から、北海道全域のお客様を訪問しています。
■北海道で何が起きているのか── 半導体・宇宙・データセンター
いま、北海道は日本がこれから成長していくための鍵をいくつも抱えている土地になっています。
その動きを、少しご紹介します。
千歳 ── 次世代半導体の製造拠点
2023年、次世代半導体メーカーのRapidus株式会社が、千歳市に工場の建設を決めました。回路線幅2ナノメートルという、世界最先端の半導体の製造を目指すプロジェクトです。
2025年4月には試作ラインが稼働を開始し、2027年の量産開始を目標に開発が進んでいます。日本政府の支援額は累計で1兆7,000億円を超えました。
半導体の製造工程には大量の超純水が必要です。
北海道の水資源、広い工業用地、冷涼な気候による冷却コストの低さ。
千歳が選ばれたのは、この土地が持つ地理的な条件と、産業のニーズが合致したからです。
Rapidus株式会社の進出をきっかけに、千歳には装置メーカーや部品サプライヤー、インフラ整備企業の集積が始まっています。
■大樹町 ── 北海道が目指す「宇宙版シリコンバレー」
十勝地方の大樹町は、約40年前から航空宇宙産業の誘致を進めてきた町です。東と南の二方向に海が開け、ロケット発射場の拡張性が高い。
この地理的条件から、世界でもトップクラスの宇宙港の適地とされています。
2021年4月、この地に民間に開かれた商業宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」が本格稼働しました。運営するSPACE COTAN株式会社には、大樹町をはじめ、エア・ウォーター北海道、帯広信用金庫、インターステラテクノロジズなど、道内の企業や団体が出資しています。
現在、人工衛星打ち上げに対応する新射場「LC1」の整備が進められています。
HOSPOを核にして、宇宙関連企業の集積が始まっています。本社と工場を大樹町に置くインターステラテクノロジズ株式会社は、小型ロケット「ZERO」の開発を進め、約200名の従業員のうち半数が大樹町と帯広市に在住しています。
そのほかにも、ロケットの精密加工部品を製造する釧路製作所、ロケット射場関連設備の製造・開発を手がける三伸工業など、道内企業が宇宙産業に参入し始めました。
室蘭工業大学は大樹町にサテライトオフィスを設置し、北海道大学はインターステラテクノロジズとの共同研究を進めています
大樹町は2024年4月に役場内に「宇宙戦略課」を新設しました。人口約5,100人のこの町は、2022年にインターステラテクノロジズ社員の移住などにより、60年ぶりに人口減少傾向に歯止めがかかりました。日本政策投資銀行と北海道経済連合会の推計では、新射場の整備による道内経済波及効果は年間267億円、雇用誘発人数は約2,300人とされています。
https://www.town.taiki.hokkaido.jp/material/files/group/4/20220209_release.pdf
「北海道に、宇宙版シリコンバレーをつくる」。
これがHOSPOのビジョンです。
一つのロケット企業の話ではなく、北海道全体で宇宙産業のエコシステムを生み出そうとしている。そしてロケットの機体構造にはアルミニウム合金が使われます。宇宙空間の温度変化と振動に耐える、軽さと強度の両立。アルミが活躍する最先端の領域です。
■苫小牧 ── 日本最大規模のAIデータセンター
2026年には、ソフトバンクが苫小牧市に300メガワットを超える日本最大規模のAIデータセンターの開業を予定しています。
石狩市でも再生可能エネルギー100%で稼働するデータセンターが相次いで開設されました。
北海道は経済産業省から「データセンター集積型」のGX戦略地域に認定されています。
冷涼な気候、水資源、風力・太陽光・水力の再生可能エネルギー。
この土地が持つ条件が、半導体にも宇宙にもデータセンターにも共通して、新しい産業を呼び込んでいます。
■「情報は新聞に載っていない。現場に情報はある。」
Rapidusが千歳に来る。
宇宙港が大樹町にできる。
データセンターが苫小牧にできる。
ニュースは連日報じています。
でも、その現場で実際に何が必要とされているのか。
どんな部材が、どんなロットで、いつまでに必要なのか。
それはニュースには載りません。
私たちの営業担当者に、入社して間もない頃の経験があります。
先輩が、新聞にもネットにも出ていない情報を知っていた。
どこから手に入れているのか、調べてもわからない。
あるとき気づきました。先輩は、現場に通っていたのです。
工場のラインの横で、技術者と話す中でしか手に入らない情報がある。
「情報は新聞に載っていない。現場に情報はある。」
北海道の工場を回っていると、製品を保護するための養生テープの調達一つから、
その会社が次に何を動かそうとしているかが見えてくることがあります。
半導体の製造現場で求められるのは、「現場で聞く質問力」。
工程を理解し、材料の特性を語れなければ、話のテーブルにすら着けません。
ネットの情報は誰でも見られます。差がつくのは、足で稼いだ一次情報です。
そして、北海道の現場を歩いていると、アルミの仕事だけではないものに出会います。
Vol.1(沖縄編)でご紹介した「コンテナ型植物工場」は、北海道の寒冷地技術を応用したものでした。
台風で野菜が届かなくなる沖縄の離島に、北の断熱技術で安定した食料供給の仕組みを届けました。
世界自然遺産の西表島には、北海道のメーカーが設計した「コンテナ型バイオトイレ」を届けています。
インフラ整備が難しい環境に、北の技術が応えました。
北海道の技術者が持っている知恵を、1,500キロ離れた南の島の課題にぶつける。ある港で積んだ荷を、別の港で降ろす。
これは北前船の商いそのものです。
■伸びる産業は、人が明るい。
伸びる産業は人が明るい。
伸び悩んでいる産業は暗い。
現場が明るくない会社は何か抱えている。
いま、北海道の現場は明るい。
私たちは2018年から、Rapidusが千歳に来るよりも前から、この土地にいます。
「ホクセイさんはとりあえず相談すれば、なんとかなる」。
お客様にそう思っていただける存在になること。
それが、この土地で私たちが目指していることです。
北海道には、日本がこれから成長するための鍵がいくつも埋まっています。そしてその鍵を形にするとき、軽くて強い金属が必要になる。
私たちは、この土地で走り続けます。