クルーの航海日記 Vol.1
語り手:綿 友里恵(Hokusei North America / 海外事業担当)
聞き手:インタビュアー

目次
クルーの航海日記とは
「現代の北前船」を掲げる私たちの事業は一見複雑に見えますが、その中心には常に、しっかりとした想いと哲学を持って動く「人(クルー)」がいます。
本連載『クルーの航海日誌』は、現場の最前線で働く社員へのロングインタビューを通じ、
ホクセイグループが
「実際に何を行っているのか」、
日々どんな荒波に立ち向かっているのか、
そして「どのような想いで仕事に向き合っているのか」を深掘りする企画です。
「商社」の本質は、右から左へ物を流すことではありません。
異なる文化や価値観の間に立ち、泥臭く汗をかきながら「信頼」という橋を架けること。
デジタルの隙間を、泥臭い「人間力」と「お節介」で繋いでいく。
そんな商社マンたちの、飾らない航海の記録です。
AIには「言いにくいこと」は訳せない。「人財力」と「笑顔」で世界の壁を越える。
■ 商社マンの仕事は「通訳」ではない
インタビュアー: 本日はよろしくお願いします。
「クルーの航海日誌」連載のトップバッターとして、綿さんにお話を伺えるのを楽しみにしていました。
まずは、読者の皆さんに綿さんが普段どんなお仕事をされているのか、改めて教えていただけますか?
綿: よろしくお願いします。
トップバッターというのは少し緊張しますね(笑)。
私は現在ホクセイプロダクツにて主にライフスタイルの領域を担当しています。ホクセイグループの中でも、特に対外的なコミュニケーションの最前線に立つ役割と言えるかもしれません。
具体的な業務としては、海外から来日されるバイヤーさんのアテンドや、東京ギフトショーのような国際的な展示会での商談通訳、あとは海外サプライヤーとの価格交渉や納期調整…といった、いわゆる貿易実務全般を担当しています。最近だと、アメリカ・オレゴン州の食品商材の輸入プロジェクトにかなり深く入り込んでいますね。

インタビュアー: なるほど。海外の方と日本の方の間に入って、言葉を繋ぐ「通訳」や「コーディネーター」としての役割が大きいわけですね。
綿: そう見られがちですし、実際にやっている作業だけを見ればそうなんです。
でも、実を言うと私、自分では「私は通訳です」とは、これっぽっちも思っていないんです。
インタビュアー: おっと、それは冒頭から面白いですね。「通訳」ではないとしたら、ご自身では自分の仕事をどう定義されているんですか?
綿: もちろん、日本語を英語に、英語を日本語に変換する作業はします。それは最低限のスキルですから。
でも、私がホクセイで求められていること、そして私自身がやりたいことは、言葉の変換ではありません。
異なる背景を持つ「人と人との信頼関係を結ぶこと」であり、
もっと言えば、双方が輝けるように裏側で調整するような仕事だと思っているんです。

インタビュアー: 人と人との信頼関係を結ぶことですか。
綿: はい。例えば、単に言葉を伝えるだけなら、今の時代、Google翻訳やDeepL、ポケトークといったAIツールの方が、私なんかよりずっと正確でスピーディーかもしれません。辞書を引く必要もないですしね。
でも、それでもなお「綿さんにお願いしたい」「あなたがいないと困る」と言っていただける理由がどこにあるのか。
それはきっと、単に私が「英語」を話しているからではなく、言葉の裏側にある「文脈」や「感情」、そして時には「言いにくいこと」を含めて、人間として向き合い、調整しているからだと思うんです。
■ 「人材」でも「人在」でもなく。「人財力」という付加価値
インタビュアー: 非常に興味深い視点です。「AIに代替されない人間の価値」というのは、これからのビジネスにおける最大のテーマの一つだと思います。
綿: 私たちの会社には、とても大切にしているキーワードがあります。
それが「人財力」です。
インタビュアー: 「人財力」。漢字で書くと、「財(たから)」の字を使う「人財」ですね。
綿: そうです。一般的には「人材(材料)」と書かれますよね。あるいは、ただそこに存在するだけの「人在」になってしまっているケースもあるかもしれません。
私たちが目指す「人財」とは、会社から言われたことをただこなすだけの労働力ではありません。
「自らの意思で考え、動き、新たな価値を生み出せる、資産としての人間力」。
これこそが「人財力」です。
インタビュアー: 自らの意思で考え、動く。 言葉にするのは簡単ですが、商社の現場、特に言語や文化の壁がある海外取引の現場でそれを実践するのは、相当なハードルがあるのではないでしょうか?
綿: おっしゃる通りです。AIや機械翻訳は、「A」という入力に対して、最も確率の高い「B」という出力を返します。これは「正解」です。
でも、ビジネスの現場では、その「正解」をそのまま相手に投げつけることが正解ではないこともあるのです。
インタビュアー: 正解なのに、正解ではない?
綿: はい。人間同士のコミュニケーションでは、「文脈(=コンテキスト)」だけではなく、「相手の感情」、そして「その場の空気」までは読まないといけません。
しかしAIではそうした部分はまだまだ読み取りきれていません。
こうした人間独自の人間力のような部分も、こうした「人財力」なのかもしれません。
人財力の必要性を痛感した、忘れられない経験があります。
■ AIには「言いにくいこと」は訳せない
インタビュアー: ぜひ、そのエピソードをお聞かせください。
綿: ある時、日本の伝統的な技術を持つメーカーさんと、海外展開のプロジェクトを進めていた時のことです。
そのメーカーさんは素晴らしい歴史と技術を持っていて、日本国内では非常に評価の高い製品を作られていました。海外のバイヤーが興味を持ったこともあり、実際にお話を進めていました。
インタビュアー: 日本の伝統工芸は、海外でも人気がありますからね。
綿: ええ。でも、そう甘くありませんでした。バイヤーからのフィードバックは、非常にシビアなものだったんです。
「品質が高いのは認める。だが、色使いや仕様が今の現地のライフスタイルには合わない。このままでは市場に受け入れられない」 という、かなり厳しい評価でした。
インタビュアー: 作り手のこだわりと、バイヤー目線での評価が食い違ってしまったわけですね。これを翻訳するのが大変そうですが…
綿: そうなんです。当時の私は「バイヤーの生の声こそが、改善のヒントになるはずだ」と信じていました。だから、その要望をありのまま、率直に通訳して伝えたんです。「色はこう変えた方がいい、ここはこのままでは採用できないと言っています」と。
すると、メーカーのご担当者様から、強い反発を受けてしまったんです。
インタビュアー: 作り手としてのプライドがありますからね。「自分たちが良いと思って作っているのに」と。
綿: はい。良かれと思って伝えたアドバイスが、結果として信頼関係を損ないかけてしまった。
その時、ハッとしたんです。
「あぁ、正論をそのまま伝えることが、必ずしも正解じゃないんだ」って。 AIなら100%正確に訳していたでしょうが、それでは人の心は離れてしまいます。
インタビュアー: そこで綿さんはどう対応を変えられたのですか?
綿: この経験を経て、相手の性格や状況に応じた柔軟な対応を取るようにしました。
時にはバイヤーの厳しい言葉をそのまま伝えず、「今回は残念ながら採用が見送りになりましたが、バイヤーは技術力には非常に感銘を受けていました」と、まずは肯定的な面を強調することもあります。
嘘をつくわけではありません。
でも、「どの言葉を選べば、関係者全員にとって良くなるか」を考え抜く。
言いにくい事実を、信頼関係を壊さずに伝え、最終的にビジネスを成立させる。
この調整力こそが、AIにはできない「人財力」なのだと学びました。

■ フィルターをかけて間を取り持つ
インタビュアー: 先ほど、メーカーさんへの伝え方を工夫するというお話がありましたが、逆にメーカーさんの言葉をバイヤーに伝える際にも、そうした調整は行っているのでしょうか?
綿: はい、もちろんです。むしろ、そちらの方が頻度は高いかもしれません。
日本のサプライヤーさんは、自社の製品に強い愛情とこだわりを持っていらっしゃいます。そのため、商品説明をお願いすると、その歴史や製造工程の苦労話など、熱のこもったお話が10分ほど続くことも珍しくありません。
インタビュアー: 日本のモノづくりの素晴らしい点ですね。ただ、スピード勝負の商談の場だと…
綿: そうなんです。私が担当しているある海外バイヤーとは、もう8年以上の付き合いで信頼関係ができているのですが、彼女の性格や求めているものを私は熟知しています。
彼女は、製品の情緒的なストーリーよりも、まずは「品質スペック」「価格」「納期」「ロット数」といった実利を重視して判断したいタイプなんです。
だから、サプライヤーさんの10分間の熱い想いは私がしっかりと日本語で受け止めつつ、
バイヤーに対して通訳する時には「要点は3つです」と、30秒程度にギュッと要約して伝えるんです。
インタビュアー: 10分を30秒に!すごい圧縮ですね。
綿: もちろん、ストーリーが不要なわけではありません。ですが、まずは彼女が判断を下すために必要な情報だけを抽出し、ノイズを削ぎ落として渡す。
これにより、商談のスピードと精度が劇的に上がります。AIは「全部訳す」ことはできても、「相手に合わせて情報を捨てる」という判断はできませんから。
■ 2万歩を歩く「動く備忘録」
インタビュアー: まさにバイヤーにとっての「優秀な秘書」のような動きですね。
綿: 秘書、と言えば、来日中のアテンド業務はまさに秘書そのものかもしれません(笑)。 例えばギフトショーのような大規模な展示会をバイヤーと一緒に回る時は、広い会場内を歩き回り、1日で2万歩を超える過酷なスケジュールになります。

インタビュアー: 2万歩!それは体力勝負ですね。
綿: バイヤーは時差ボケもあって疲弊していますし、次から次へと新しい商品を見るので、どうしても記憶が曖昧になってくるんです。
「さっき見たあの商品の単価、いくらだったっけ?」 「あのブース、どこにあったっけ?」 と聞かれることが多々あります。
その時、私が即座に「あれは〇〇円で、ロットは〇個からでしたね。場所は東ホールの入り口付近です」と答えられるようにしています。
インタビュアー: おっしゃる通りただの通訳ではないですね…
綿: はい。スマホの翻訳アプリにはできない、生身の人間だからできるサポートだと思っています。
■ 最大のピンチを「笑い」に変える力
インタビュアー: 完璧なプロフェッショナルですね。でも、人間ですから予期せぬトラブルやミスもあるのでは?
綿: もちろんです! 冷や汗をかくような失敗もたくさんありますよ。 でも、個人的に「何事も笑顔に変える」という大切なマインドがあります。
以前、ある取引先を訪問した時のことです。バイヤーからの事前の情報に基づいて、コミュニケーションをとったところ、事前情報に誤りがあったことがありまして…
インタビュアー: うわぁ、、、!! それは、かなり大変ですね…
綿: もう、その時は焦りました。バイヤーの情報が間違っていたんです。
普通ならそこで凍りついて、商談どころじゃなくなる可能性もありますよね。
でも私は、その瞬間もどうにか工夫してその場を笑いに変えたんです。
インタビュアー: そこで笑いに!
綿: すると結果的にそれが強力なアイスブレイクになって、その後の商談がすごく和やかに進んだんです。
インタビュアー: すごいリカバリー力ですね。
綿: 気まずい空気をそのままにしない。自分のミスも、バイヤーのミスも、全部ひっくるめて「笑い」に変えて、ポジティブな空気を作る。
「綿さんといると、トラブルさえも楽しくなるね」と言ってもらえること。
それも、私が思う「人財力」のもう一つの形かもしれません。
■ 科学者たちの「熱狂」を翻訳する
インタビュアー: 現在、綿さんが最も力を入れているのが、このオレゴン州の「フルーツピューレや酵母」の事業だと伺っています。
綿: はい、今は注力していることの一つですね。クラフトビールブームと言われて久しいですが、実はビールの原料って、基本的には「水・ホップ・モルト・酵母」の4つだけなんです。
でも、飲み手は常に新しい味、驚くような体験を求めています。そこで「味変」の切り札として需要が高まっているのが、私たちが扱っているオレゴン産の高品質なフルーツピューレなんです。

インタビュアー: なるほど。ビールの可能性を広げるために重要なエッセンスなんですね。
綿: その通りです。そして一昨年11月からは、さらにビールの味の根幹を決める「リキッド酵母」の取り扱いも始めました。
これらを提案するために、私は日々、日本中のブルワリーさんとお話ししているんですが、
彼らは本当に、ただの職人ではなく「科学者」なんですよ。
インタビュアー: 科学者、ですか。
綿: ええ。「なんとなく美味しい」ではなく、「糖度がどう変化して、pH値がどうなると、この香りが立つ」というような、緻密な計算と実験を繰り返しています。
オレゴンのサプライヤーもまた、フルーツの成分を科学的に分析して製品を作っています。
私の仕事は、日米のこの「科学者たち」を繋ぐことなんです。
専門的な数値やデータのやり取りはもちろんですが、それ以上に「なぜこの数値を追求したのか」という情熱の部分を、温度感を下げずに翻訳して伝える。
「あなたの科学と、私の科学を合わせたら、もっとすごいものができるぞ!」という熱狂が生まれる瞬間を演出するんです。
インタビュアー: AIならデータを送って終わりですが、綿さんはそのデータに込められた「熱意」まで運んでいるわけですね。
綿: はい。データだけでは伝わらない「体温」のようなものを伝えること。それが、私がホクセイでやりたい仕事の形なんです。

■ 英語を使って「誰を笑顔にしたいか」
インタビュアー: 長時間にわたり、貴重なお話をありがとうございました。 最後に、この記事を読んでいる方、そしてホクセイグループに興味を持っている未来のクルー(仲間)へ、メッセージをお願いします。
綿: よく「英語を使った仕事がしたい」「通訳の仕事がしたい」という志望動機を聞くことがあります。
でも、もし「英語を話すこと」自体が目的なら、ホクセイは少し違うかもしれません。
ここでは英語はただのツール、「道具」に過ぎないからです。
大切なのは、その道具を使って「何をしたいか」、そして「誰を笑顔にしたいか」です。
インタビュアー: 誰を笑顔にしたいか。
綿: はい。商社の仕事は、華やかなことばかりではありません。
今日お話ししたように、板挟みになって怒られることもあれば、無理難題に頭を抱えることもあります。時差で眠れない夜もあるかもしれません。
でも、そんなトラブルさえも「笑顔」に変えて、目の前の相手のために汗をかける人。
「言いにくいこと」から逃げず、信頼関係を築くために一歩踏み込める人。
そんな「人財力」を持った方と一緒なら、私たちはもっと遠くへ行けるし、もっと面白い「航海」ができると信じています。
インタビュアー: AIにはできない仕事が、ここにはたくさんあるということですね。
綿: その通りです。
世界中の「美味しい」「楽しい」を翻訳し、日本の価値を世界へ、世界の価値を日本へ。
そんな仕事を本気で楽しみたい仲間を、心から待っています!
インタビュアー: 綿さん、熱いお話をありがとうございました!